ステロイド薬
ステロイドは、副腎皮質で作られる生体ホルモンの一種です。その作用は多彩 で、実に全身のあちこちで働きますが、薬として用いる場合の主たる作用は、免疫抑制作用と抗炎症作用です。これらの作用を利用して、膠原病、潰瘍性大腸炎、間質性肺炎、サルコイドーシス、ルポイド肝炎、特発性血小板減少性紫斑病などの免疫異常、気管支喘息、アトピー性皮膚炎、アレルギー性鼻炎などのアレルギー疾患、重症感染症、悪性腫瘍などに用いられています。その作用は劇的で、上手に用いるとまさに魔法の薬のような効果 を発揮します。
作用機序
作用機序としては、細胞の遺伝子に作用して、ある部分の遺伝子が読まれる(ひいてはある種のタンパク質が作られる)頻度を変化させます。このようにして、免疫に関与する細胞の活動性を調節するサイトカインの産生を抑えたり、抗体産生を抑えたりすることによって、免疫抑制作用や抗炎症作用を発揮するようです。
使用法
ステロイド剤としてはたくさんの製剤が作られていて、その作用持続時間 や代謝系への副作用が違うので、用途に応じて適切な製剤を選択することが大事です。
ステロイド剤の使用法としては、最初に十分量を投与し、病状が悪化しないことを確認しながらすこしずつ量 を減らしていくという用い方が一般的です。1日2~3回に分けて投与することもありますが、生体の産生するステロイドは朝に分泌されるので、このリズムを崩さないためには、朝1回の投与が望ましいです。この他に、パルス療法といって、大量 のステロイドを短期間注射する用い方もあります。またショック状態の改善や、喘息の重症発作などの際には、単発で相当量 を注射することもあります
副作用
10%程度の人に見られる重症副作用としては
- 感染症にかかりやすくなり、また重症化しやすい。
- 骨粗鬆症になりやすい。小児では骨の成長がおさえられるので低身長になりやすい。
- ステロイド精神病という精神障害をおこすことがある。
- 胃潰瘍や十二指腸潰瘍になりやすい。
- 糖尿病を発症しやすい、または悪化させる。
- 動脈硬化が進行しやすい。
- 長期投与により副腎不全をおこすことがある。この場合は、自分でステロイドを産生できなくなるので、ステロイド剤を止めることが難しくなる。
この他にも重篤でない副作用として
- 太りやすい(ムーンフェイスと言われる丸顔など)
- 毛深くなる。
- にきびができやすくなる。
- 血圧があがる。
- 白内障や緑内障になりやすい。
- むくみやすい。
などがあげられます。
副作用の発現は、投与量と投与期間によります。1日1~2錠以内の場合は副作用が出ることはきわめて少ないです。また量が多い場合でも、期間が短ければ心配のないことが多いです。副作用の予測される場合は、予防的抗生物質投与や予防的胃薬など、必要な予防法が取られ、また副作用が出ていないか調べる検査も定期的に行われます。
また皮膚や吸入などの局所投与では、副作用はほとんど見られないとされていますが、強力なものを、相当量 、長期間用いたりするとまれに上記のような副作用が見られることがあります。
ステロイドはたくさんの副作用がある薬ではありますが、これまでに多くの人々の命を救って来た薬でもあります。また、ステロイド以外には方法のない場合も多々あります。現在、片寄ったり誇張された情報が出回っているため、ステロイド剤を悪のように思われている患者さんもおられますが、過った情報に惑わされないでほしいと思います。そして不安がある場合は、勝手に休薬したりせずに、納得が行くまで主治医に何度も説明を求めてほしいと思います。